大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)68号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実に関しては、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。(取消事由(一)について)

本件考案の詳細な説明及び実用新案登録請求の範囲(成立に争いのない甲第二号証―実公昭五〇―三〇八七六号公報)の記載からみると、本件考案は、コードに接続された端子板を内装する凹溝を設けたケースに対して、電球を支持しその導線を端子板に接触させるように笠付きの支持部材を嵌合するようにした構成のクリスマス用装飾電灯において、ケースに設けた凹溝の内面の上端から下端にわたつてコードと端子板との接続部における突出部(もり上がつた部分)を収容するための凹所を設けることによつて、端子板を凹溝に嵌挿するに際し、右接続部の突出部が凹溝内面に突つかかることなく、端子板を凹溝にスムーズに嵌挿できるようにしたことを特徴とし、このことによつて、端子板を嵌挿する際、裸線接続部が凹溝の内面壁にひつかかつて離脱するなどの悪影響を受けないようにしたものと理解される。したがつて、本件考案の構成要件のうち「凹溝内面にコードと端子板との接続部における突出部を収容する凹所を上端から下端にわたつて設けた」点は、本件考案における重要な構成要件であることは、明らかである。

ところで、審決は、右の構成要件に関して、第二引用例(実公昭三九―二四五六四号公報)には、本件考案の右構成と同じく「凹溝内面にコードと端子板との接続部における突出部を収容する凹所を上端から下端にわたつて設けたクリスマス用装飾電灯」が記載されているものと認定(二丁表下から三行目から末行)したが、審決のこの点の認定は、原告主張の如く誤りというべきである。

すなわち、第二引用例(実用新案公報)における考案の詳細な説明及び実用新案登録請求の範囲の記載を精査すると、第二引用例には、本件考案の「コード5」に対応する「給電用被覆導線10」と本件考案の「端子板4」に対応する「金属板製接触子4」との接続及び導線の装飾体支持部への挿入に関して「しかして該導線を接触子に接続するには支持部の透孔11を通じて装飾体の前方へ長く引出した導線10の被覆の一部を剥した端部を接触子4の端部に例えば半田付けした後導線を引戻して接触子を支持部に押し込むことによつて簡単に行うことができる。」旨の記載(公報第一頁右欄二二行ないし二七行目)があるものの、接触子を支持部2の筒の内側壁に形成された凹溝に押し込むに際し、本件考案の如く接続部に突出部(もり上がつた部分)のできることを前提として、この接続部のもり上がつた部分をいかにスムーズに凹溝8に嵌挿するかという点に配慮したことを窺い知る記載は、見い出せない。

かえつて、第二引用例の装飾電灯にあつては、第一図(〔編註〕省略)及び第三図(〔編註〕省略)において、支持部2の筒の内側壁に形成された凹溝8の深さ(幅)は、接触子4の金属板の厚さの数倍もあるものが示されており、また、第一図に、第二引用例の装飾電灯の導線10は、接続子4の下端に接続されており、しかも、前記引用した如き方法で接触子が支持部に押し込まれた後は、右の接続部分は凹溝8の下方に連なる「径小孔11」の内部に収納されるものが示されている。

たしかに、被告主張の如く第二引用例の第三図には、支持部2の筒の内側壁に形成された凹溝8の内面には、上端から下端にわたつて被告のいわゆる「弧状の凹所」が図示されており、審決もこれを根拠に右認定をしたものと認められるが、この部分をもつて本件考案の「コードと端子板との接続部における突出部を収容する凹所」(6a)と同視することはできない。すなわち、第二引用例の考案の詳細な説明には、凹溝8の内面に図示された「弧状の凹所」についての説明は全くないうえに、導線10と接触子4との接続部分を支持部にいかにスムーズに挿入するかについての技術的課題を意識したことを窺い知る記載もないことは前叙のとおりであり、かつ凹溝8の深さ自体が前記のとおり接触子の厚さと比較して相対的に深い構成として図示されていることなどを考え合わせると、被告の主張する第二引用例の装飾電灯の凹溝内面にみられる「弧状の凹所」は、本件考案の如く接続部における突出部をスムーズに嵌挿し、これを収容するという技術的課題ないしは目的のもとに形成されたものとは到底考えられないからである(右「弧状の凹所」は、下端部が肉厚の電球を着脱する際の金属板製接触子の弾性による変位に備えて「遊び」を配慮した空間とみるか、もしくは、装飾体1の支持部の加工の便宜等のため側壁の厚さを横断面各部にわたつて均等にしようとしたことによるものと推認される。)。

いずれにせよ、第二引用例には審決認定の如き「凹溝内面にコードと端子板との接続部における突出部を収容する凹所を上端から下端にわたつて設けられている」構成についての記載はなく、また第二引用例が本件考案のもつ前叙のとおりの技術思想を示唆しているものともいえない。

したがつて、審決のこの点に関する第二引用例の認定は誤りであるといわざるをえない。

ところで、審決(成立に争いのない甲第三号証)は、本件考案における右の重要な構成要件が、第二引用例に記載されていることを前提としたうえで、他の二つの相違点に検討を加え、結局、本件考案は、第二引用例記載の事項と同一であると判断したことは、審決の記載上明らかであるから、前記認定の如く第二引用例のこの点の構成に関する認定が誤りである以上、この認定の誤りが、本件考案を第二引用例のものと同一とし、実用新案法第三条第一項第三号の規定に違反して登録されたものとした審決の結論に影響を与えることは明らかである。

そうすると、原告主張のその余の事由についての判断を待つまでもなく、審決には、これを取り消すべき違法があるものというべきである。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!